出会ったのは半年前。
部活の新入生勧誘で見かけて思わず声をかけたのが始まり。
「はじめから入るつもりでした」って無表情で話す君に一目惚れしました。
今まで女の子と付き合ったこともあった。(どの子にも1ヶ月くらいで「お前バレーが恋人なんじゃねーの」とフラれたが)
普通に女の子で抜いてたし、突然男子に一目惚れなんて自分が一番戸惑ってる。
180は超えてる自分と然程変わらない身長で、女の子に見えるはずもない男。
気のせいだと思おうとしてたけど、初めて見た君の笑顔にああ、やっぱ好きだなって思ってしまったんだ。
「乙女か」
「自分でもわかってんだって!」
「180超えの男が」
「やめろ! ダメージやばい!」
ファミレス窓際の席、俺の向かいに座って精神攻撃してくる黒尾鉄郎。
合同合宿で仲良くなったのがきっかけで、こうして休日に会って遊ぶ仲になった他校の友人だ。
今回黒尾を呼び出した目的は俺の相談にのってもらうため。
俺は新入部員、赤葦京治に一目惚れした。
今まで遊んできて、そういう話をしたこともあったから黒尾は俺がノーマルだって知ってるし、巨乳好きなことも知っている。
だから俺が男を好きになったと聞いても、いつもの冗談なんだろうと思っていると思うが、俺はかなり本気だ。
「……で、本題に入るんだけどさ」
「おう……」
事の始まりは部内でいつものメンバー(木兎、木葉、鷲尾、猿杙、小見、赤葦)で下世話な話題で盛り上がっていたこと。
鷲尾と赤葦は無理矢理巻き込んだんだけど。
そのうち話題は好きなオカズから好きな女子に変わり、赤葦のことが好きな俺は適当に誤魔化した。
「お前バレーが恋人だもんなー」という木葉の一言で次のターゲット、赤葦に移った。
赤葦ストイックだし、好きな人とかいなさそう、とか勝手に思っていた俺は「いますよ。教えませんけど」と言った赤葦の答えにひどくショックを受けていた。
ショック過ぎていつものように木葉と小見と赤葦の好きな人が誰かからかって詮索することもできず、その日は1日しょぼくれモードで先輩に怒られた。
「……お前さ、赤葦クンのどこが好きなわけ?」
「最初は一目惚れだからわかんねーけど、今は、とにかく優しいところが好き!」
「ほぉー。例えば?」
「自主練最後まで付き合ってくれる」
「あれに……」
黒尾も合宿のときとか自主練付き合ってくれるから好き。
「あと、俺、水分補給とか休憩とかすぐ忘れるから教えてくれるし、Tシャツとかで汗拭く癖あるから、それやる前にタオル渡してくれる。マネージャーより早く」
木葉は嫁かって言ってた。
赤葦が嫁とか、それ良いな。
「それに力持ち! 階段から落ちた俺のこと受け止めたんだぜ!?」
「それ、すげぇ!」
少ししか差がないとはいえ自分より身長ある筋肉質な男を受け止めるって相当すげぇよな。
そのあと赤葦と木葉にWで怒られたし、部活行ったら何故か先輩方も知っててまた怒られた。
エースの自覚を持てとか、心配かけるなとか。
あれ? 俺、怒られ過ぎじゃね?
「でもこの前もうちょっとパワーがほしいって言ってた」
「これ以上!?」
「そーゆー努力家なとこも好きなんだよなー」
トスも赤葦のが一番しっくりくるし、それに、
「笑顔が一番好き。俺が試合でストレート決まったとき笑顔で頭撫でてくれた。いっつも無表情だからすっげぇ印象に残ったんだよ」
その時の赤葦の笑顔を思い浮かべて、つい顔が緩む。
すると目の前の黒尾も笑って今日はセットしてない俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
気持ちよくて思わず黒尾の手に頭を擦り付けると察したのかそのままわしゃわしゃ撫でてくれる。
気持ちよさに目を細めていると、視界の端で誰かが黒尾の腕を掴んだ。
頭から黒尾の手が離れ、残念に思って顔をあげると、
「木兎さん」
俺の名前を呼ぶ優しい声。
俺をいつも叱ったり褒めたりしてくれる声。
「赤葦!?」
「はい。店の窓から木兎さんが見えたので」
そう言うと赤葦はテーブルの上をチラッと一瞥して、また視線を俺に戻す。
「コーラ、何杯目ですか?」
「え、二杯目」
俺が指を二本立てると赤葦の眉間にグッとシワがよった。
「次はお茶か水にしてくださいね」
「えー」
正直不満だったけど赤葦に、木兎さん?って言われたら言うこと聞くしか選択肢はない。
それに俺のこと考えて言ってくれてるのはわかってる。
渋々頷くと優しい手つきで俺の頭を撫でてくれて、さっき黒尾に撫でられたときに乱れた髪も然り気無く直した。
「今日は髪、セットしてないんですね」
「おう。今日の予定は黒尾に会うだけだったからな」
「俺はそっちの方が好きです」
「でも木葉がますます子供っぽいなってからかう」
「俺はそっちの方が好きです」
「……明日からセットしない」
使ってたワックスは黒尾にやろう。
いや、アイツのは寝癖か。
「じゃ、帰りますよ、木兎さん」
「え」
「暗くなってから帰り道で何があるかなんてわからないでしょう。トラブルに巻き込まれただけでも部活停止になったりすることだってあり得るんですよ。木兎さん、そんなの堪えられませんよね。明るいうちに俺と帰りましょう。それじゃあ」
さようなら、と黒尾に会釈して俺の手を引いてさっさと店を出る赤葦に、俺は戸惑いながら付いていくことしかできなかった。
お題配布元
確かに恋だった